村田さんの農場は、ガンケと呼ばれる崖が見渡せる屈足湖の近くにある。風光明媚な景色が広がる56ヘクタールの耕地で、小麦やビートの主要作物のほか、ゆり根や人参、スイートコーン、ブロッコリーなどを作付けしている。
そばの栽培については35年を超える大ベテランだ。「初めは手刈りして島立てして自分で唐箕(とうみ)にかけて出荷していたんだよ。手間がかかって仕方がなかったね」と日焼けした顔で微笑む。それから数年後には小麦と同じタイプの大型コンバインでの収穫に転換。地域でそばを栽培する仲間と組合を立ち上げ、生産率のアップと栽培技術の研究に勤しんできた。
転機が訪れたのは10数年前に北海道全域を襲った暴風だった。そばの収穫は北海道に台風がやってくる時期と重なる。成長し実を付けたそばに風は天敵で、実がこすれ合い落ちてしまう。町内をはじめ道内の他地域のそばも大きな被害を受けたときに、村田さんの農場だけは例年通りの収量を達成した。村田さんが独自に編み出した倒伏栽培の成果だった。「肥料を多めに投入して茎の成長を早めるんだ。自分の身長くらいの高さにね。そして自然の風任せで倒伏させる。茎が折れてはダメ、風になびくように育てるんだ」。
ほかにも除草の手間を省くために畝(うね)の間隔を狭めたり、土づくりを研究するなどして作業効率と生産量アップに創意工夫をこらす。その取り組みが評価され、2006年には農林水産大臣賞を受賞した。
現在はそばの生産だけではなくそば打ちにも夢中だ。新そばまつりで腕を振るっていた屈足地区の人が継続できなくなり、後継として誘われたことがきっかけだ。町内の達人の手ほどきを受け、つゆは先輩から引き継いだ。新そばまつりでは、ゆり根を天ぷらにし、おろしたての山わさびを添えて提供する。ゆり根はもちろんこと、山わさびや長ネギも自身の農場で育てたものだ。「素人集団だけど、満足してもらえる自信はあるよ」。
今年から農場の経営は長男に引き継いだ。それでも毎日畑に立ち、作物の世話をする村田さんには新たな夢がある。それは、そば店を開くこと。「そばを打つようになって自分が育てたそばを使った十割そばの美味しさにビックリしてね。たくさんの人に食べてもらいたいし、自分で自分のそばを広めていきたい」。同時に、そばをつくる農家が増えること、新得産のそばが食べられるお店がもっと増えることを願い、今日もそば畑を眺める村田さんだ。